自分の中学時代の投球フォームから考える コッキング後期〜最大外旋位 (Early Cocking)の肩・肘の障害発生の概要【野球の医学】

投球相と障害発生

野球の医学: 投球動作のメカニクス と投球障害の発症メカニズム 瀬戸口芳正 P10-18で紹介されている投球相と障害発生についてまとめてみます。詳しくは本書をご覧ください。

障害が起こりやすいフェーズとして以下の5つが挙げられます。

  1. コッキング後期〜最大外旋位 (Early cocking)
  2. 最大外旋位〜加速初期 (Late cocking)
  3. 加速期 (Acceleration)
  4. 加速後期〜リリース
  5. リリース〜フォロースルー

それぞれのフェーズで問題となる障害やキーポイントについておさらいしましょう。

1. コッキング後期〜最大外旋位 (Early Cocking)

このフェーズで問題となる障害やキーポイントは

  • 関節内インピンジメント
  • TER (Total External Rotation)不足・肩甲骨後傾不足
  • 過水平伸展 (Loose packed position)
  • Hook type

が挙げられる

このフェーズでは肩の関節内インピンジメントが問題となることが多い。
その原因としてはTER (Total External Rotation)不足や肩甲骨の後傾不足があげられる。
これらの可動域が不足するとLoose packed positionでの投球となり、肩の過水平伸展が起こってしまう。

なぜこのフェーズで関節内インピンジメントが発生しやすいのでしょうか?

関節内インピンジメントを理解する3つのポイント

瀬戸口(1)は以下の3つが関節内インピンジメントを考えるうえで重要と述べている

  1. 関節上腕靱帯の位置と緊張
  2. 大胸筋の活動
  3. コックアップのタイミングと慣性

1. 関節上腕靱帯(SGHL, MGHL, IGHL)の位置

まず、関節上腕靱帯の各部の特徴を抑えていきましょう。

  • IGHL (Inferior glenohumeral ligament, 下関節上腕靱帯)
    • ハンモック状になっており、MGHLやSGHLに比べて厚く・幅も広い
    • 幅が広いことはanterior band と posterior bandに分かれていることからもわかる
  • MGHL (Middle glenohumeral ligament, 中関節上腕靱帯)
    • IGHLに比べて薄く、比較的脆弱
  • SGHL (Superior glenohumeral ligament, 上関節上腕靱帯)

結論としてはコッキング後期〜最大外旋位 (Early Cocking)においてIGHLが関節前方に位置する必要がある。このフェーズにおいてIGHLが関節前方に位置するためには適切なTER (Total External Rotation)獲得・肩甲骨後傾獲得が必要である

Glenohumeral Ligaments, ligaments of the shoulder – Everything You Need To Know – Dr. Nabil Ebraheim
Closed packed position と Loose packed position

結論としてはClosed packed positionでコッキング後期〜最大外旋位 (Early Cocking)を迎えたい。Loose packed positionでは上腕骨頭の前方偏位が発生し、関節内インピンジメントの可能性が高まる。

Closed packed position: 肩関節におけるコッキング後期〜最大外旋位 (Early Cocking)のCPPは最大外旋位である。CPPでは関節包と関節上腕靱帯は硬く緊張した状態となり、肩甲骨と上腕骨をつなぐ剛体の一部として機能するとされる。

Loose packed position: 最大外旋位に到達しない状態では関節包・関節上腕靱帯は緩い。その状態でコッキング後期〜最大外旋位 (Early Cocking)を迎えると上腕骨頭が関節内で「遊んで」しまう。この状態では上腕骨頭が関節窩上でぐらつくので関節唇が損傷してしまう可能性があります。

2. 大胸筋の活動

コッキング後期〜最大外旋位 (Early Cocking)においてClosed packed positionを獲得できた場合はSingle plane での投球となる。Single planeでは肘への外反力も働かないため、投球において大胸筋の活動をさほど必要としない。

3. コックアップのタイミングと慣性

瀬戸口(1)は以下の2つが関節内インピンジメントとコックアップの関係性を考えるうえで重要と述べている

  1. コックアップが下肢・体幹の運動に対して遅れてしまうタイミングの問題
  2. コックアップのタイミングは適切であるが肩甲骨が過度に内転位にある位置の問題
1. コックアップが下肢・体幹の運動に対して遅れてしまうタイミングの問題

具体的にはフットプラント時(右投手であれば左足が地面についた時点)に右肘がボールよりも上にある状態である。この状態は肩関節外転・内旋位である。この時点で過度に肩関節内旋位にあると最もストレスがかかるタイミングで最大外旋位に到達することができず、Loose packed positionでの投球を余儀なくされる。

下の写真は管理人の中学時代。この写真ではまだフットプラントはしていないが、僕のフォームは肘がボールよりも上にある時間が長い。この状態での投球だったため最大外旋位までの時間を確保できず、今思い返すとLoose packed positionでの投球になっていたと思う。このようなフォームでは下半身・体幹を使うことができず、いわゆる担ぎ投げ・手投げとなってしまう。速い球を投げようとすると肘が前へ出てしまうダーツタイプとなりやすく、肘や肩への負担が増えやすい。事実、僕はUCL損傷・関節唇損傷を繰り返して中学から大学まで怪我なく投げられたシーズンはなかった。チームの誰よりも練習量は多かったと思うが、パフォーマンスが出なかった悔しい時期が続いた。練習量も大事だが、パフォーマンスを発揮するにはフォームの土台が必要。これは練習量だけでは補えず、理想のフォームに対する正しい理解が必要である。

管理人の中学時代。この写真ではまだフットプラントはしていないが、僕のフォームは肘がボールよりも上にある時間が長い。いわゆるコックアップが遅れ気味のフォームといえる。

ちなみにコックアップの遅れを取り戻そうと無理矢理トップを作ろうとすると素早い外旋運動が起こるが、この運動は慣性力により肩関節の内転・水平屈曲(←これがDarts throwにつながる)・「肘下がり」が誘発される。これをDynamic coupling (3) という。

2. コックアップのタイミングは適切であるが肩甲骨が過度に内転位にある位置の問題

肩甲骨が過度に内転してしまうと肩甲骨の後傾が制限される。肩甲骨の後傾が制限されるとDouble planeでLoose packed positionでの投球となるためインピンジメントが発生しやすくなる。

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参考文献

  1. 野球の医学: 投球動作のメカニクス と投球障害の発症メカニズム 瀬戸口芳正 P10-18
  2. Seroyer ST, Nho SJ, Bach BR, Bush-Joseph CA, Nicholson GP, Romeo AA. The kinetic chain in overhand pitching: its potential role for performance enhancement and injury prevention. Sports Health. 2010;2(2):135–146. doi:10.1177/1941738110362656
  3. Determining muscle’s force and action in multi-articular movement. Zajac FE, Gordon ME. Exerc Sport Sci Rev. 1989;17:187-230. Review. 

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